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4. 川崎病の現状と今後
帝京大学 小児科 柳川幸重
(日本小児循環器学会) |
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昭和42年(1967)に川崎富作が雑誌「アレルギー」に「四肢の特異的落屑を伴う小児の急性熱性皮膚粘膜淋巴腺症候群(自験例50例の臨床的監察)」として、後に川崎病と呼ばれる疾病を初めて発表してから40年たとうとしている。この論文には冠動脈の変化に関しては何も触れられていない。川崎病における冠動脈瘤および突然死が一般に認知され始めたのは柳澤正義が1974年にPediatrics(1)に発表してからである。 冠動脈病変の起こりえることが明らかになっても全ての川崎病既往児に冠動脈造影を行うのは現実的ではなく、どのような症例に動脈造影を行うべきか悩む時代が続いた。
その後1980年代に入り、超音波画像診断装置2Dエコー機器の発達とともに、川崎病の冠動脈瘤の画像診断の時代が始まった。超音波画像診断装置はこの後めざましく発達史、より微細な構造も描出されるようになった。我が国の小児科における超音波診断装置の普及は、川崎病のおかげであるとも言えるほどである。
この2Dエコーで冠動脈病変が強く観られる症例に対してのみ冠動脈造影を行うことで、川崎病における画像診断の悩みは当面解決された。しかし、2Dエコーは、拡張病変には診断価値が高いが、狭窄病変・閉鎖性病変の発見には適していないことが明らかになり、この点に関しては冠動脈造影に勝るものではないことも明らかになってきた。突然死につながる冠動脈病変は狭窄・閉鎖であるので、この点は臨床上きわめて重要であった。
超音波診断装置の発達によるドプラ、カラードプラにより血流速度・方向が判定できるようになり、先天性心疾患の診断に関してはきわめて重要な情報を提供した。しかし、川崎病の心臓病変に関しては、心機能測定・弁逆流診断の有用であったが、狭窄・閉鎖病変の診断にはそれほど寄与しなかった。
平成10年代後半になると川崎病の画像診断に幾つかの新たな方法が用いられるようになってきた。一つは、心筋SPECTである。放射性同位元素99mTc-tetrofosminなどを用いた心筋SPECTが虚血や心筋灌流欠損の評価のために小児でも用いられるようになってきた。また、16列以上のmulti-slice spiral CT(MSCT)による冠動脈評価も、呼吸を止める必要があるという問題点を抱えながらも小児対して用いられるようになり、より詳細な冠動脈病変の変化が見られるようになった。また、Magnetic Resonamce Coronary Angiography (MRCA)による乳幼児における冠動脈の描出も、平成19年度の本学会における鈴木淳子の教育講演のように、冠動脈造影に匹敵するほどの繊細な画像情報を与えてくれるようになってきている。
冠動脈病変の画像診断に関しては、急性期のベッドサイド診断としての2D心エコーの役割は、その簡便性から今後も変わることはないと思われる。長期経過観察において、または虚血が疑われる際の検査としてSPECT, MSCT, MRCAの検査の役割が増えていくだろう。とくに、エコービームが入りにくくなるために心エコーでの冠動脈描出が困難になる学童期以降の患児では、MSCT, MRCAに期待するところが大きい。これらの方法における問題点は、既に述べた呼吸の問題の他に、きれいな画像を撮るためには、高額な機械と画像作成に熱意を持つ放射線医が必要なことであり、今後に期待したい。
また、ここでは川崎病における冠動脈変化の診断について話題を絞ってきたが、川崎病は全身の血管炎である。当然、心臓以外の病変も起こし得ることを忘れてはならない。すぐに生命に関わることはないが、腎臓や、脳血管における変化などが報告されつつある。これも今後注意を集める領域となるかもしれない。
- Yanagisawa M, Kobayashi N, Matsuya S. Myocardial infarction due to coronary thromboarteritis, following acute febrile mucocutaneous lymph node syndrome (MLNS) in an infant. Pediatrics 1974;54(3):277-80.
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