出生前診断の限界と有用性
国立成育医療センター 外科 黒田達夫
【背景】一部の新生児外科疾患は生直後より重篤な病態を呈し、極めて緊急性が高い。さらに特定の疾患では、近年、出生前治療の臨床的有用性が認知されつつある。こうした疾患の周産期管理を考える上で精確な出生前診断の重要性が増しているが、現時点では出生前評価による生後の病態予測には限界があるように思われる。出生前の画像診断・評価と生後の病態、病理組織診断との相関を調べる目的で自験例につき検討した。
【対象および方法】2002年3月の開院以来2008年11月までに外科的疾患の出生前診断で当科へ紹介された胎児症例は303例あり、これらの症例の超音波画像および胎児MRI画像、臨床経過、病理組織などを後方視的に検討した。
【結果】胎児肺疾患とされた43症例の出生前診断の内訳はCCAMが23例、肺葉内肺分画症などCCAM以外の嚢胞性肺疾患が12例、肺葉外肺分画症が7例、その他の嚢胞1例であった。このうち20例ではすでに手術が行われて病変の病理組織学的診断が確定しているが、出生前診断と病理組織診断が一致した症例は11例であった。CCAMでは胎児期から生直後に重篤な経過をとる症例が多い傾向がみられたが、出生前にCCAMとされた11例中5例では病理組織学的に診断が変更された。一方、出生前に腹部疾患とされた82症例についてみると、腹壁異常は出生前に精確に診断されたが、消化管疾患の正診率は胎便性腹膜炎で78.6%、食道閉鎖症で80%、小腸閉鎖症で70%であった。直腸肛門奇形では、総排泄腔奇形における双角のhydrometrocolposのように画像的に特徴的な形態を示すものは出生前診断されたが、出生前診断されずに生後に発見される症例も多く見られた。また、腹腔内の嚢胞性病変には、胎児期の茎捻転により腹腔内で遊離の状態となった卵巣嚢胞や消化管重複症ほか多彩な疾患が含まれ、原発部位などの出生前評価は困難であった。
【考察・結語】出生前画像診断は、モダリティが限られること、疾患の出生前の自然史に関する知見が乏しいことなどから、精確な診断・評価が困難である場合が少なからず見られた。周産期管理にあたり、このような出生前診断の限界を熟知する事が必要であると思われる。同時に特異的な出生前画像や、疾患の周産期自然史に関する知見を蓄積してゆくことが今後の課題と思われた。
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